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会議での「分かりません」をアサーティブに伝える:若手エンジニアのための具体的フレーズと心構え

Tags: アサーティブネス, コミュニケーション, 会議, 若手エンジニア, 報連相

1. 会議での「分かりません」が抱える課題

IT企業で働く若手エンジニアの皆様にとって、日々の会議はプロジェクトを円滑に進める上で欠かせない場です。しかし、時に複雑な議論や専門的な内容に直面し、「この部分、どうも理解が追いつかない」と感じることがあるかもしれません。

そのような時、「分かりません」と正直に伝えるべきか、それとも理解したふりをして乗り切るべきか、迷うこともあるのではないでしょうか。安易に「分かりません」と言うと、能力不足だと思われるのではないか、あるいは議論の腰を折ってしまうのではないか、といった不安がよぎることもあるでしょう。

この不安から発せられない「分かりません」は、以下のような問題を引き起こす可能性があります。

本記事では、この「分かりません」という一言を、アサーティブなコミュニケーションの視点からどのように建設的に伝え、自身の成長とチームへの貢献に繋げられるかを解説いたします。

2. 「分かりません」をアサーティブに伝える心構え

アサーティブネスとは、相手を尊重しつつ、自分の意見や感情を率直に、かつ適切な方法で表現するコミュニケーションのことです。「分かりません」を伝える際にも、このアサーティブな姿勢が非常に重要になります。

2.1. 不明点を示すことは「無能」ではない

まず持つべき心構えは、「分からない」と伝えることは決して恥ずかしいことでも、無能な証拠でもない、ということです。特に若手エンジニアの場合、経験が浅いのは当然であり、新しい情報や複雑なシステムについて不明点があるのは自然なことです。

むしろ、不明点を明確にし、それを解消しようとする姿勢は、自身の成長意欲とプロジェクト成功への真摯なコミットメントを示すものです。

2.2. 質問は議論を深める機会

「分からない」という発言は、単なる知識不足の表明にとどまりません。それは、議論されている内容のどこに曖昧さがあるのか、どの前提が共有されていないのかを浮き彫りにし、結果として議論をより深めるきっかけとなる可能性があります。

「分かりません」は、その後の建設的な質問への第一歩と捉えることができます。

2.3. まずは自分で調べる姿勢を持つ

「何でもかんでも質問すれば良い」というわけではありません。まずは配布された資料に目を通す、過去の議事録を検索する、関連する仕様書を確認するなど、自分でできる範囲で不明点を解消しようと試みる姿勢が大切です。その上で、それでも解決しない部分を具体的な質問として伝えることが、相手への配慮となります。

3. 具体的な「分かりません」のアサーティブな伝え方

「分かりません」という漠然とした表現ではなく、何が、どのように、なぜ分からないのかを具体的に伝えることが、アサーティブなコミュニケーションの第一歩です。ここでは、状況に応じた具体的な言い換え例と、発言の構成方法をご紹介します。

3.1. 状況に応じた言い換え例

| 状況の例 | NG例 | アサーティブな言い換え例 | | :------------------------------------------- | :------------------- | :------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ | | 単に理解できない場合 | 「分かりません。」 | 「恐れ入ります、この部分についてもう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。」
「現時点では〇〇(具体的な不明点)の認識がクリアになっておりません。△△(前提知識や思考プロセス)を踏まえると、□□(疑問点)という認識で合っておりますでしょうか。」 | | 情報が不足している場合 | 「資料が足りないので分かりません。」 | 「〇〇(具体的な判断や作業)の判断には、△△(不足している情報)に関する情報が必要かと存じます。もし差し支えなければ、関連する情報をご共有いただけますでしょうか。」 | | 前提知識が不足している場合 | 「前提知識がないので分かりません。」 | 「大変恐縮ですが、この件の背景にある〇〇(専門用語やシステム名)について、当方で知識が不足しております。概要だけでもご教示いただけますと幸いです。」
「〇〇の概念について、現時点では明確に理解しきれておりません。関連する資料や用語集などございましたら、ご案内いただけますでしょうか。当方でも追って調査いたします。」 | | 自分で調べたが、まだ不明な点がある場合 | 「調べたのですが、分かりませんでした。」 | 「〇〇について、△△の資料を確認し□□までは理解できたのですが、◇◇の解釈について迷っております。この点について、ご意見を伺えますでしょうか。」
「〇〇の課題に対し、当方でA案とB案を検討したのですが、それぞれのメリット・デメリットを比較する上で、△△の観点での情報が不足しております。ご教示いただけますと幸いです。」 | | 指示や依頼の意図が掴めない場合 | 「何をすればいいか分かりません。」 | 「〇〇の件、承知いたしました。具体的なタスクとしては、△△(自分の理解したタスク)という認識で合っておりますでしょうか。また、完了のイメージは□□(具体的なアウトプットの形式など)で問題ないでしょうか。」 |

3.2. 発言の構成例:建設的な質問に繋げるフレームワーク

「分かりません」という不明確な状態から、建設的な質問へと繋げるための発言構成例をご紹介します。これは、相手に自分の状況を理解してもらい、的確な回答を引き出すためのフレームワークです。

  1. 私の理解: まず、自分がどこまで理解しているか、あるいはどの点が曖昧なのかを明確に伝えます。
  2. 具体的な疑問点: どのような情報が、なぜ、どのように不足しているのかを具体的に示します。
  3. 求めたいこと/次の行動: 相手に何を求めているのか(説明、資料、助言など)を明確にし、必要であれば自分が行う次の行動も伝えます。

例文:

このように具体的に伝えることで、相手もどの部分について説明すれば良いか明確になり、建設的な対話に繋がりやすくなります。

4. 事例に学ぶ「分かりません」の伝え方

ここでは、実際に若手エンジニアが直面しうる会議での「分かりません」に関する成功・失敗事例をご紹介します。

4.1. 失敗事例:「すみません、よく分かりません」

ある会議で、Aさんはプロジェクトの新しいフレームワーク導入について説明を受けていました。しかし、特定のモジュールの挙動について理解が追いつかず、疑問が残ったままになっていました。

Aさんの発言: 「すみません、その部分、よく分かりません…。」

結果: 発言後、会議室に一瞬沈黙が流れました。説明者は「どの部分が分からないのですか」と尋ねましたが、Aさんは具体的な疑問点をうまく言葉にできず、「全体的に…」と返すのが精一杯でした。結局、議論はそのまま進行し、Aさんは不明点を解消できないまま持ち帰ることになりました。後日、Aさんがそのモジュールを実装する際に、認識の齟齬が発覚し、大きな手戻りが発生してしまいました。

考察: 「すみません、よく分かりません」という発言は、何が不明なのかが明確でなく、相手もどのように説明してよいか戸惑ってしまいます。結果的に、Aさんの不明点は解消されず、後々業務に支障をきたす結果となりました。

4.2. 成功事例:具体的な疑問点と意図を伝える

別の会議で、Bさんはシステムの新機能に関する技術仕様について議論していました。ある部分で、設計の意図と実装の整合性に疑問を感じましたが、すぐに全体を理解するのは難しいと感じました。

Bさんの発言: 「〇〇の件について、私が理解している範囲では△△(自分の理解)という認識ですが、□□の挙動について、具体的なシナリオを想定すると◇◇のような懸念があるように思えます。この点について、設計の意図や背景をもう少し詳しくご説明いただくことは可能でしょうか。今後の実装方針を明確にする上で、ぜひお伺いしたく存じます。」

結果: Bさんの発言は、単に「分からない」と伝えるだけでなく、自分の理解範囲具体的な疑問点、そして質問の意図(実装方針を明確にしたい)まで含んでいました。これにより、説明者はBさんの疑問点を正確に把握し、具体的な例を挙げて詳しく説明することができました。Bさんは不明点を解消できただけでなく、議論の質を高めることに貢献し、結果としてスムーズな開発に繋がりました。

考察: Bさんのアサーティブな伝え方は、自身の不明点を率直に認めつつも、その背景にある自身の思考や、質問の目的まで明確に伝えました。これにより、相手はBさんの状況を理解し、的確な情報を提供できたのです。

5. まとめ:アサーティブな「分かりません」で成長と貢献を

会議で「分かりません」と伝えることは、決して後ろ向きなことではありません。むしろ、自身の成長を促し、チーム全体の生産性を高めるための建設的なアクションです。

大切なのは、「分からない」という感情を否定することなく、それを具体的な言葉に変換し、相手に伝える努力をすることです。本記事でご紹介した心構えと具体的なフレーズ、構成例を参考に、ぜひ次の会議からアサーティブな「分かりません」を実践してみてください。

不明点を適切に伝えることで、あなたの理解は深まり、誤解による手戻りは減少し、最終的にはITエンジニアとしてのスキルアップとチームへの貢献に繋がることでしょう。