チーム開発で意見が対立した時:若手エンジニアがアサーティブに調整を進める方法
チーム開発における意見対立とアサーティブネスの重要性
IT企業のチーム開発では、技術選定、設計方針、実装方法など、様々な場面で意見の対立が生じることがあります。これは健全な開発プロセスの一部であり、より良いアウトプットを生み出すための大切な議論の機会でもあります。しかし、若手エンジニアの方々の中には、意見が対立した際にどのように振る舞えば良いか迷いを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「自分の意見を主張して反発されたらどうしよう」 「目上の人の意見に逆らうのは気が引ける」 「感情的にならずに、どうやって自分の考えを伝えれば良いのだろう」
このような不安を抱え、結果として自分の意見を十分に伝えられなかったり、不本意な選択を受け入れてしまったりすることもあるかもしれません。
そこで本記事では、チーム開発における意見対立を、アサーティブなコミュニケーションを通じて建設的な合意形成へと導くための具体的な方法と心構えについて解説します。
アサーティブネスとは:自分も相手も尊重する姿勢
アサーティブネスとは、相手の意見や感情を尊重しつつ、同時に自分の意見や感情も率直かつ誠実に表現するコミュニケーションのスタイルです。攻撃的でもなく、受動的でもない、双方にとって建設的な関係を築くことを目指します。
チーム開発の文脈では、このアサーティブな姿勢が、以下のような効果をもたらします。
- 誤解の防止: 曖昧な表現を避け、意図を明確に伝えることで、認識のズレを防ぎます。
- 信頼関係の構築: 互いに意見を尊重し合うことで、チームメンバー間の信頼が深まります。
- 問題解決の促進: 多角的な視点から議論を深め、より質の高い解決策を見つけやすくなります。
- 心理的安全性の向上: 自由に意見を言える環境が育まれ、チーム全体のパフォーマンス向上に繋がります。
意見対立時にアサーティブに調整を進める具体的なステップ
チーム開発で意見が対立した際に、アサーティブに調整を進めるための具体的なステップをご紹介します。
1. 事実と意見を区別し、状況を正確に把握する
議論の前に、何が事実で、何が個人の意見や解釈なのかを明確に区別することが重要です。
- 「〜というデータがあります」「現在の実装では〇〇という課題があります」 のように、客観的な情報に基づいて状況を共有します。
- 「私は〜だと考えています」「私の経験では〜の方が良いと思います」 のように、自分の意見であることを明示します。
この区別が曖昧だと、感情的な対立に発展しやすくなります。
2. 相手の意見を傾聴し、理解を示す
自分の意見を述べる前に、まずは相手の意見に耳を傾け、その意図や背景を理解しようと努めます。
- 「〇〇さんのご意見は、〜という点に重点を置かれているのですね」
- 「〜という理由から、そのアプローチを提案されているのですね」
このように、相手の意見を要約したり、その背景にある意図を確認したりすることで、相手は「自分の意見が聞かれている」と感じ、安心して議論に参加しやすくなります。
3. 自分の意見をI(私)メッセージで明確に伝える
相手の意見を理解した上で、自分の考えや提案をI(私)メッセージで伝えます。Iメッセージとは、「私は〜と感じます」「私は〜だと思います」のように、主語を「私」にして自分の感情や考えを表現する方法です。これにより、相手を非難することなく、自分の内面を率直に伝えることができます。
- 「現状の〇〇という課題に対して、私はA案の方が〜という理由で効果的だと考えております。」
- 「〇〇さんのB案も魅力的ですが、私は〜という観点から懸念を感じております。」
- 「もしよろしければ、私の提案であるC案もご検討いただけますでしょうか。」
具体的なメリットやデメリット、なぜそのように考えるのかという根拠を添えることで、より説得力が増します。
4. 共通の目標を再確認し、代替案を模索する
意見対立の本質は、共通の目標達成に向けたアプローチの違いであることがほとんどです。議論が行き詰まったと感じたら、一度立ち止まり、チームとして何を達成したいのかという共通の目標を再確認します。
- 「私たちが目指すのは、〇〇の機能を実現し、ユーザー体験を向上させることですよね。」
- 「この目標を達成するために、A案とB案の他に、何か別の選択肢は考えられないでしょうか。」
そして、双方の意見の良い点を組み合わせる、あるいは新たな視点から解決策を探るなど、建設的な代替案の模索を促します。
5. 合意形成とネクストアクションの確認
最終的に、チームとしてどの意見を採用するのか、あるいはどのような折衷案で進めるのかを明確に合意します。合意した内容と、それに伴う具体的なネクストアクション(誰が、何を、いつまでに)を確認し、認識のズレがないように文書に残すことが望ましいでしょう。
アサーティブな調整のための心構え
具体的なスキルだけでなく、以下の心構えを持つことも重要です。
- 完璧を求めすぎない: 意見対立は自然なことであり、常に最善の答えが出るとは限りません。より良い結果を目指しつつ、状況に応じた次善の策を受け入れる柔軟性も大切です。
- 感情的にならない: 感情的になると、本来の論点から外れてしまい、議論が非建設的になりがちです。一呼吸置き、冷静に事実と意見を整理することを心がけましょう。
- 相手の立場を想像する: 相手がなぜその意見を持っているのか、どのような背景や制約があるのかを想像することで、共感的な理解が深まり、より良い解決策に繋がりやすくなります。
事例から学ぶ:アサーティブな調整がもたらす変化
成功事例:異なる技術選定へのアサーティブな提案
あるプロジェクトで、ベテランの先輩が特定フレームワークAの利用を主張していました。しかし、若手エンジニアのKさんは、将来的な保守性や最新技術への対応を考慮し、フレームワークBの方が望ましいと考えていました。
Kさんはまず、フレームワークAのメリットを先輩から丁寧に聞き出し、「私もその点は理解しています」と共感を示しました。その上で、フレームワークBがもたらす長期的なメリット(例: 学習コストの低減、最新ライブラリとの連携容易性)を具体的なデータや、過去の類似プロジェクトの事例を交えながらIメッセージで伝えました。
「先輩のご意見の通り、フレームワークAには既存資産との親和性という大きなメリットがございます。一方で、私は今後のメンバーのスキルアップや、3年先のメンテナンスを考えると、フレームワークBを採用することで、より効率的な開発と長期的なコスト削減が期待できるのではないかと考えております。もしよろしければ、両フレームワークの比較資料を作成し、改めてお話しする機会をいただけないでしょうか。」
結果として、先輩はKさんの具体的な根拠と、未来を見据えた視点に納得し、最終的に両フレームワークの良い点を組み合わせたハイブリッドなアーキテクチャが採用されることになりました。Kさんは自分の意見を尊重しつつも、先輩の経験を尊重する姿勢を示したことで、チーム全体の合意形成に貢献しました。
失敗事例:意見を主張できなかったことによる弊害
別の若手エンジニアYさんは、プロジェクトの設計段階で、機能Cの実装方法について効率の悪いアプローチが提案された際、自分の懸念を伝えられませんでした。
「自分よりも経験豊富な先輩が決めたことだから、きっと何か理由があるのだろう」 「言っても聞き入れてもらえないだろう」
このような思いから、Yさんは具体的な課題点や改善案を心の中に留めたまま、提案を受け入れてしまいました。結果として、実装段階で多くの手戻りが発生し、スケジュールに遅延が生じる事態となりました。この時、Yさんは「あの時、もっとアサーティブに自分の意見を伝えていれば…」と強く後悔したと言います。
まとめ
チーム開発における意見対立は、避けるべきものではなく、むしろチームを成長させるための貴重な機会です。若手エンジニアの皆さんがアサーティブなコミュニケーションスキルを身につけることで、自身の専門性を発揮し、チーム全体の生産性と心理的安全性を高めることに大きく貢献できるはずです。
事実と意見を区別し、相手を尊重しつつ、Iメッセージで自分の意見を明確に伝えること。そして、常に共通の目標を見据え、建設的な合意形成を目指す姿勢が、より良いチームワークとプロジェクトの成功へと繋がります。一歩ずつ実践を重ね、自信を持ってチーム開発に臨んでください。